だれも知らない小さな世界

ウィルス世界の不思議




だれも知らない小さな世界



 人間にとって都合の悪いものができると「腐る」といい、ありがたいものができると「発酵した」という。同じ作用だけど、人さまの都合で呼び名が変わる。どちらでもない反応には呼び名すらない。

 人の体内でも、善玉と悪玉に区別される。人体に共生して有用な働きをしてくれる細菌が善玉細菌。悪さをするものが悪玉細菌。

 細菌よりはるかに小さいウイルスは、さらに粗略な扱いを受ける。人に害をもたらすエイズ、C型肝炎、インフルエンザ、エボラなどは極悪ウイルス。極悪以外は無視される。というより、体内にひそむ無害なウイルスたちは存在じたいが一般には認知されていない。免疫機能が低下したときに発現するものもいる。たいがいのやつは何もしないでおとなしくしている。


 ウイルスは細胞を持たず、自力では増殖できない。他の生物の細胞にもぐりこみ、遺伝子情報をその生物の遺伝子に書き込んで、いったんは消えてしまう。宿主の細胞に増殖する材料を提供してもらい、複製をコピーして放出する。

 短期間で薬剤に抵抗力を持つよう変異する要因は、生殖サイクルが異常に短いことと、遺伝子が一重らせんになっているRNAウィルスが存在すること。コピー時に正誤チェックそれず、コピーミスを起こすことで変異し、結果として薬剤のターゲットから外れる。増殖サイクルが短いため、変異のスピードは猛烈に速い。


 一部書き換えられた宿主の遺伝子はどうなるのか。細胞がすぐ死ねば、それっきりで何も残らない。他の宿主に移ればそこでコピーをくり返す。生殖細胞にコピーされると、宿主の次世代にウイルス遺伝子が引き継がれる。

 人間の遺伝子情報のかなりの部分はウイルス遺伝子によって構成されているそうです。人間は、ひょっとしたら全身がウイルスによって構成されているのかもしれません。


 猛威をふるう悪玉ウイルスは悪党ではない。本来的に同居していた安定宿主のもとでは悪さをせず、穏やかに共生している。何かの間違いでミスマッチな宿主に入り込んでしまったがために、慌てふためく。抗体軍団の総攻撃を受け、やむなく暴れまくり、そのあおりを受けて人間が健康を害してしまう。

 よほどのことがないかぎり、抗体軍団が勝利し、ウイルスは全滅する。ウイルスが勝利してしまうと人間がダウンする。宿主を殺すことはウイルスにとってなんのメリットもない。やむをえずの結果としてそうなってしまうだけ。

 抗体軍団をうまくかわして潜入を続けるやつもいる。賢明にも、トラブルを起こさないまま居着いてしまうやつもいる。宿主を殺さず、共生するほうがいいにきまってますから。

 共生すると、いつしか自分がウイルスであることも忘れ、人間と一体化してしまう。次々侵入してきては、宿主の次世代に受け継がれ、情報を残していく。そんなことを人類の長い歴史の中でくり返している。


 ウイルス遺伝子が人の遺伝子にもぐりこむと、当然のことながら遺伝子情報に狂いが生じる。病気になることもあれば、奇形となることもある。多くは短命に終わり、受け継がれることは少ない。

 遺伝子情報の中の重要でない部分が書き換えられて、影響が出ないこともある。ときには宿主が遺伝子の変質によって有利な形質を獲得することもある。その形質が次の世代へも受け継がれる。生息環境とマッチした変化が生じれば、進化と呼ばれる。同種の他の個体よりも有利な形質を獲得したなら、種の中で主導権を握ることもある。こうしたウイルス関与による生物進化は、かなり前から指摘されている。

 なんだかSFみたいですね。ウイルスに体を乗っとられてるかもしれないと考えるのは不気味です。でも、ウイルスと合体している全人格は、すでにあなたそのものなんですよ。

ひょっこり通信 2009.9.20




あるよね、第三波 ・・・ウィルスはいつもいるんです

ウイルス進化論の難点

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