台所の科学




台所の科学



 台所は科学があふれかえっている。炒め物をしても蒸し物をしても日々それを感じとれる。


〔熱移動〕
 冷蔵庫は内側の冷却板と外側の放熱板との間で熱交換をやっている。台所の中心テーマは熱エネルギーの移動だ。

 フライパンの上では具材をひっきりなしにかきまわし、上下を返す。まんべんなく加熱することが一番の目的だけど、熱移動を促進する目的もある。熱は温度の高いところから低いところへ移動する。具材を動かさなければ同じ部分ばかりが熱せられ、熱移動は滞る。フライパンに伝わった熱は温度の低い空気中へと逃げてしまう。茹でるときは対流が起きてかきまわしてくれるが、フライパンでは人間の手で対流を起こしてやらねばならない。煮物も対流が鈍いのでかきまわす必要がある。


 蒸し物はほっとけばいいので楽だ。油を使わなくてすむということもあり、ギョーザでもなんでも蒸し料理だ。蒸すと高温の水蒸気が容器内をかけめぐり、容器の壁面や具材に付着し、液化する。液化したときに高熱を発して具材を熱する。

 水が水蒸気(気体)に変わるときは気化熱を奪ってものを冷やすが、水蒸気が水になると温める。この原理は冷蔵庫にも使われている。使われるのはフロンガスやアルコールなどの冷媒だけど、原理は同じ。フロンガスは常圧では気体だが、圧力をかけると液化し、熱を発する。圧力を抜くと気化して冷やす。放熱板で熱を逃がし、冷却板で熱を吸収する。二つの間でくるくると循環している。

 ヤカンの口から出てきた透明な水蒸気(気体)は、出ると同時に白い湯気(液体)に変わる。ヤカンの外の、温度の低い空気にふれると液化する。湯気の粒は小さいけど、空に浮かぶ雲と同じく、液体です。粒子が小さく、重力を上回る上昇力がある場合、落下しません。


〔たんぱく質凝固〕
 たんぱく質は熱や酸に出会うと、かたまってしまう。目玉焼きの白身は熱せられて白くかたまる。

 ヨーグルトは、乳酸菌の持つ酵素によって牛乳の中の乳糖が分解され、乳酸ができることによって乳たんぱくが凝固し、できあがる。

 菌そのものが糖が分解するんじゃなくて、細胞の中の酵素が触媒となって分解してゆく。酵素は人間の体内にもある。分解してくれないと、食べたものを消化吸収することができない。アミラーゼなどが糖を、リパーゼが脂肪を、プロテアーゼがたんぱく質を分解する。各種、いろんな酵素が存在するおかげで全生物は生かされている。

 ヨーグルトは自家製造してます。あまりにも簡単に作れるので、買うのがばからしくなった。容器にヨーグルトをちょっと入れ、牛乳を注ぐ。ふたをして暖かいところに放置するだけでいい。


〔発酵〕
 わが家のヨーグルトのタネは何年も使いまわしてるものですが、もとは自然発酵したものです。以前使ってた冷蔵庫はかなりボロだったので、飲み残しの牛乳がかたまってしまったのです。

 ヨーグルトに、乳酸菌だけでく酵母菌もまぎれこんでしまうことがある。酵母菌発酵が起こるとヨーグルトが泡立つ。乳糖を分解して二酸化炭素を吐き出す。穴だらけのヨーグルトができる。

 昔の海外テレビアニメに穴あきチーズいうものがよく登場した。この穴が二酸化炭素の泡によるものらしい。発酵の段階で酵母菌が混じり込んでしまうのだろう。今は菌の管理も厳格なので、穴あきチーズは見かけない。

 パンやケーキの細かいスポンジ状のふっくら感を作り出すときにも、酵母菌が役目をはたしている。糖分を分解し、二酸化炭素の細かな気泡を作る。同時にエタノールというアルコールも排出するが、多くは揮発し、一部は香り成分として残る。買ったばかりのま新しい食パンのにおいをかいでみよう。これがエタノールのにおい。


 酵母菌というやつは乳酸菌と同じで、自然界のありふれた菌。だから、想定してないところで「仕事」してくれることがある。イワシの干物を作ったのだが、酵母菌発酵してしまった。食べると、シュワッときた。魚の身の中に二酸化炭素が入ってた。気にせず、全部食ってしまった。ふだん僕はアルコールをまったく飲まない。微量のアルコールで酔ってしまった。かなり酔いが回った。

 以前、梅ジュースにわずか残ってたアルコールに酔ったことがある。後々までさんざんからかわれた。今度イワシで酔って、また何年も言われるかもしれない。


 ちなみに、発酵と腐敗は単純な定義によって分けられているだけで、同じことです。人間にとって有益な物質が生成されれば発酵、有害な物質が生成されれば腐敗。あくまで人間側のご都合だけで分けられている。

 発酵によって生成されるものは食品だけにとどまらない。接着剤や化粧品、いろんな分野で活用されている。発酵の世界は奥が深い。探究してみると面白いですよ。


 僕は典型的な文系の理系好きです。なんでも科学の目で観察してみると、すごく面白い。身のまわりのなんでもない現象を、時には「なんでかな?」と考えてみませんか。

ひょっこり通信 2007.9.16




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